ランチェスター法則・戦略とは?
◎勝つための「戦略」と「戦術」を知ろう
(この項目は数式など出てちょっと眠いですが、頑張ってゆっくり読んでみて下さい)
どうすれば戦いに勝てるかを世界で最初に研究したのは、戦いの盛んだった古代ギリシャです。ギリシャでは「将軍の術と兵士の術を高めれば戦いに勝てるはずだ」という結論に達し、この2つの高め方を組織的に研究しました。
ギリシャでは「将軍の術」を「ストラテジア」と呼び、明治の初め頃にヨーロッパに兵学の研究に行った日本の軍人は、将軍の術を「戦略」と翻訳しました。
そして、戦略は将軍の頭の中でじっくりと構想が練られるもので、将軍の側近でもその内容がよくわからない。そこで、「戦略とは見えざるもの」という解説を加えたんですね。「略」は知恵を意味します。
つまり、戦略とは将軍の術で、その意味は「軍全体の効果的な勝ち方」あるいは「軍全体の効果的な勝ち方のルール」ということになります。
これを経営に置き換えると、「経営戦略」とは「全社的な勝ち方」「全社的競争の勝ち方のルール」となります。
次は「兵士の術」ですが、ギリシャでは掃除を専門にする人を「タクティコース」と呼びます。つまり、手に掃除道具を持ち、次に手や体を繰り返し動かす。
これと同じく、兵士は手に武器を持ち、手や足を繰り返し動かします。この動作が掃除をする人とよく似ていることから、いつの間にか兵士のこともタクティコースと呼ぶようになったんです。
これを日本の軍人は「戦術」と翻訳し、兵士は手や足を動かす仕事が中心になるので「戦術とは見えるもの」と解説を加えました。
つまり、経営における戦術とは、道具を使ってモノを加工したり、販売係がカタログを持ってお客を訪ねたり、経理が伝票を書いたりする、繰り返し行う作業を指します。ちなみに、説明は省きますが、目的と目標と戦略の3つを加えた「広い意味での戦略」は86%で、「戦術」は14%になります。つまり、6対1になるのです。
ポイント! 「戦略」とは全社的競争の勝ち方のルールである。
「戦術」とは繰り返し手や体を動かして働く仕事のことである。
経営者であるあなたしか「戦略」を立てる人はいない。
◎全社的な勝ち方のルール「ランチェスターの法則」とは?
独立して自分一人や数人でやる場合はもちろん、従業員が30名以下の中小企業では、社長が自ら戦術=営業活動をしたり、帳面を付けたりします。
同時に、どんなに小さな会社でも、経営に成功するには戦略=全社的な勝ち方のルールを研究し、競争に勝たねばなりません。
この戦略の能力を高め、経営戦略の基本と言われるのが「競争の法則」として有名な「ランチェスターの法則」です。
名の知れた企業では創業期の「ソフトバンク」、旅行ベンチャーの「H・I・S」、「マツモトキヨシ」、「セブンイレブン」、コーヒーショップの「タリーズ」などが、このランチェスターの法則を応用しています。いずれも目覚ましい成果を上げているのは周知の通りです。ネットで「ランチェスター 社名」で検索ください。
ランチェスターの法則の考案者はフレデリック・W・ランチェスターというイギリス人で、自動車会社の経営者です。ランチェスター氏は1914年の7月、第一次世界対戦の勃発に刺激を受け、その2カ月後の10月に2つの法則を発表しました。
この法則はその後、アメリカの数学者クープマンらによって研究が深められ、第2次世界大戦の対日戦略に大きな威力を発揮し、アメリカ軍の勝利に大きな貢献をしました。
ポイント! ランチェスター法則とは戦いの法則である。
第1法則は 攻撃力=兵力数×武器性能
第2法則は 攻撃力=兵力数の二乗×武器性能
◎第1法則は一騎打ち戦
戦国時代の主力兵器はヤリでしたが、ヤリで戦う場合は敵味方とも兵士がヤリを持って横に並び、合図と共に一斉に敵に向かって突っ込みます。武器性能が同じヤリの場合、こういう戦いでは敵味方とも同数の戦死者が出ます。
例えば100人と60人が戦い、60人側が全滅するまで戦うと、100人の側も60人の戦死者が出ます。つまり、損害の出方は1対1で同じになります。次に、200人と60人が戦った場合も、やはり双方の損害は60人と60人で1対1です。
これは歴史上の戦いでも検証できます。明智光秀は天王山で豊臣秀吉と決戦をしましたが、秀吉軍3万5000人に対して光秀軍は1万6000人で秀吉の勝利。
しかし、戦死者の数は両軍共に3000人でした。つまり兵数は2対1でしたが、損害としては1対1です。飛行機の場合も、機関銃を使わない体当たりの空中戦では損害は1対1です。
図表を1P
このように、ヤリや刀のような射程距離が短い兵器を使っての「接近戦や体当たり戦」では、初期兵力数の差に関係なく戦死者・損害は1対1になる、これが第1法則です。
ポイント! 接近戦・体あたり戦では、兵力数に違いがあっても、戦死者・損害の割合は同じである。
◎力の差が2乗となる第2法則
双方の武器性能が同じで、射程距離が長い兵器を使い、離れて戦うと双方の力関係は二乗比になります。これが第2法則です。
例えばA軍が5人、B軍が2人いて、川を挟んでライフルで撃ち合ったとしましょう。A軍の5人は相手から攻撃を受けますが、1人が攻撃される確率は5分の1です。つまり、5分の1の確率を持った攻撃を2人から受けますから、A軍の計算上の損害は5分の2になります。
図表1P
一方、B軍の2人は、一人が攻撃される確率は2分の1です。これを5人から受けますから、B軍の計算上の損害は2分の5となります。両軍の計算上の損害を比較すると、A軍4対B軍25の損害となり、攻撃力はこの逆ですから、5対2で戦いをすると実際には25対4という大差の力関係になります。
こうして、射程距離が長い兵器を使って離れて戦うと、双方の力関係は二乗比になります。これが第2法則です。
第2法則の戦い方で、A軍100人対B軍60人の戦いの損害を計算すると、A軍は何人残るか。A軍、B軍の戦力はそれぞれの二乗ですから、10000引く3600は6400。答えはこのルートで80人。B軍60人が全滅したときに、A軍は80人残る。つまり、A軍の損害は20人に対し、B軍の損害は60人。損害は1対3です。さらに、200人対60人の戦いの場合、損害は1対6になります。
第1法則の戦い方と比べ、いかに損害が少なくなるかがわかります。同じ100人の兵力でも、損害は3分の1に減ります。さらに200人の場合は6分の1です。味方の優位が相手より大きくなればなるほど、効果が強められることに注目して下さい。
実際、太平洋戦争の場合、アメリカ軍は空中戦でも地上戦でも、いつも3倍から4倍の兵力で攻撃し、つまり、真の力関係では3倍の時は1対9、4倍では1対16になります。しかも、兵器から打ち出す弾数は、日本軍の何倍も多いものでした。その結果、空中戦でも地上戦でも、戦死者はアメリカ軍1に対して日本軍は10と大きな差になり、損害はランチェスターの第2法則通りになっています。
ポイント! 射程距離の長い兵器を使った戦いでは、戦力の強い方が、2乗作用で有利になる。
◎「強者の戦略」と「弱者の戦略」
以上の第1法則と第2法則から、次の結論が導き出されます。
「兵力数が少ない優勢軍」の将軍はランチェスターの第1法則を応用し、
程距離が短い一騎打ち的な兵器を選び
?戦うときは敵に近づいて一騎打ち戦をする
?そのためには、接近戦や一騎打ち戦がしやすいよう、身を隠しやすい戦場を選ぶ
こうすると損害の出方が優勢軍と同数になり、第2法則で戦ったときと比べると、劣勢軍が相対的に有利になり、同時に効果的な戦いができることになります。
一方、「兵力数が多い優勢軍」の将軍はランチェスターの第2法則を応用し、
?程距離が長い兵器を使用
?戦うときは相手と離れて戦う
?そのためには広くて見通しがいい戦場を選ぶ
こうすると優勢軍の損害が少なくなり、戦いを有利に進められます。
つまり、販売係の多い会社や売り場面積の広い会社は、ランチェスターの第2法則をもとに目標を定めると競争条件が優位になるのです。
これを経営に応用すると次のようになります。
◆劣勢企業=弱者の社長がとるべき経営戦略
?一騎打ち戦がしやすい商品を選ぶ
?接近戦や一騎打ち戦がしやすい営業方法を決める
?そのためには、接近戦や一騎打ち戦がしやすい特別な営業地域を選ぶ
こうすると二乗作用が起きないので、競争条件が不利な会社でも経営効率を落とさずに経営ができ、相対的に有利になれるのです。
◆優勢企業=強者の社長がとるべき経営戦略
?間隔戦や広域戦がしやすい商品を選ぶ
?間隔戦や広域戦がしやすい営業方法を決める
?そのためには利用者の数が多い大都市を重視する
こうすると確率の法則で二乗作用が起きるので、販売係や売り場面積が有利な会社がますます有利になります。
図表1P
つまり、競争条件が不利な会社は、ランチェスターの第1法則をもとに目標を定め、次に第1法則をもとに運営をすれば失敗が少なくなります。
このように、効率の良い経営のやり方には、優勢企業が行う「強者の戦略」と劣勢企業が行う「弱者の戦略」の2つがあり、しかも、このやり方は全く正反対になっています。
ポイント! 強者の戦略と弱者の戦略は違う。あなたは、弱者の戦略を採用しよう。
◎あなたは「強者」?それとも「弱者」?
以上、経営のやり方には、競争条件が有利会社が行う「強者の戦略」と、不利な会社が行うべき「弱者の戦略」の2つがありますが、強者は次の条件で決まります。
◆強者の条件
?1位であること
?市場占有率26%以上確保していること
?2位との間に10対6以上の差を付けていること
この3つが強者の戦略が実行できる最低条件ですが、この条件を満たしている会社は1000社中5社くらいしかなく、残りの995社は弱者になります。
例えば、日産自動車やマツダ、ライオンやコニカは大企業です。しかし、これらの会社は業界内では2番手以下であり、業界の中では弱者になるのです。
さらに、995社中の400社は競争条件が著しく不利な「番外弱者」になります。つまり、社長が1000人いたら、その中の400人は番外弱者の社長になるのです。しかも、独立して5年未満の会社は「番外中の番外」になり、独立したばかりの会社に至っては最低の弱者になります。
とくに、以前、大企業にいて独立した人は、このあたりを勘違いしやすいですから、自分は最低の弱者だという認識を持って行動をすることが大事です。
ポイント! 1000社中995社は弱者である。
独立して間もないあなたは、間違いなく弱者である。
そのことを、肝に銘じよう。
◎あなたのための経営戦略ポイント
弱者の経営戦略の概念をまとめると、以下のようになります
・弱者は先発会社に差別化し、同じやり方をしない
・弱者は小規模1位主義、部分1位主義をねらえ
・弱者は強い競争相手がいる業界にはけっして参入しない
・弱者は戦わずして勝ち、勝ちやすきに勝つ
・弱者は対象を細分化する
・弱者は目標を得意なもの一つに絞る
・弱者は軽装備で資金の固定化を防ぐ
・弱者は目標に対して、持てる力のすべてを集中する
・弱者は競争相手に知られないよう、静かに行動する
◎経営の中心要因を知ろう
経営にはいろいろな要因がありますが、これを大きく分けると次のようになります。
・商品対策
・地域対策
・客層対策
・営業対策
・顧客対策
・組織対策
・資金対策
・時間対策
商売とは簡単に言うと、何を=商品を、どこの、誰に、どうやって売っていくかということです。
つまり、1番目は商品。まずお客さんのお金と交換するのは商品になりますから、商品対策が1番目の経営の要点になります。
2番目はどこのお客さんに売るのか=エリア対策。
3番目は、そのエリアのどういう業界や客層に売るのか。個人の家庭か会社か、会社に売る場合は大企業を対象にするのか、中小企業を対象にするのか。といったことです。以上の3つがお客づくりの目標になります。
4番目は、見込み客をどうやって実際に売るか=営業対策。
5番目は、一度取り引きいただいたお客に、どうやって継続して取り引きしていただくか=顧客対策。
6番目は、以上のことをやるのに、どういう人員で役割分担はどうするか=組織対策。7番目は、会社を経営するのに欠かせないお金をどうやって調達し、どのように使うか=資金対策。
8番目は、以上の仕事をどういう時間配分で何時間働くか=時間対策、となります。
本書では、もっとも大事な1番目の商品対策から5番目の顧客対策までと、補足として8番目の時間対策を解説しています。
これから独立していこうと考えている人、独立して間もない人には、まず、これらの要素をしっかりと勉強していただく必要があるからです。6番目の組織対策、7番目の資金対策は、基礎がしっかりできてから習得しても遅くはないでしょう。
ポイント! 何を、どこの、だれに、どうやって売るか。
まずはここをマスターしよう。
◎ウェイト付けが大切
以上の8大要因を重み付けすると、商品を「1」とした場合、エリア+客層+営業+顧客対策をひっくるめて「営業」としますと、これが「2」の割合になります。ですから、よく商品3分に売り7分と言われるように、営業関係が商品の「2倍」のウェイトを持つのです。
それから、組織や人に関するものは商品の半分。それからお金に関するものは、そのまた半分。
実は、経営を成功させるかどうかというのは、資金関連が一番ウェイトが低いのです。お金がない人からすると、お金が一番大事なように思えるかもしれませんが、そうじゃないですね。
例えば銀行も大企業も子会社を沢山持ってますね。大企業はお金を沢山持ってます。でも、大企業の子会社でも、親会社によっては7割か8割は赤字です。もし、お金がありさえすれば全部良い経営ができるはずなら、大企業の子会社は全部黒字になるはずですね。でも、そうじゃない。
また、あなたのまわりの成功している創業経営者を調べてください。おそらく、そのほとんどは、最初の資金はカツカツですよ。
松下幸之助さんも本田宗一郎さんも、皆、お金はなかったですね。日本でも海外でも、世界的な起業家は、ほぼ皆、無一文に近いところからのスタートをしています。
ポイント! ウェイト付をランチェスター法則とオペレーションズリサーチの手法で計算すると、商品と営業関連を加えたお客関連は80%になり、組織と資金を加えた内部関連は20%になる。
・商品関連 :27%
・営業関連(地域・客層・営業・顧客):53%
・組織関連・人 :13%
・資金関連・お金 :7%
経営戦略7大原則
原則その? 会社経営の目的とは、粗利を少しでも多く得ることだ。
原則その? 経営はライバルとの戦争だ。
原則その? 戦略と戦術は全然違う。あなたの会社の戦略はあなたしか立てられない
原則その? 戦いの法則「ランチェスター法則」を経営に置き換えることで有利に戦うことができる
原則その? 1000社あったら995社は弱者である。あなたは、まぎれもない弱者であることを自覚しよう。
原則その? 何をどこのだれにどうやって売るか、まずはこれをマスターしよう
原則その? 経営内容には、適確なウェイト付けと優先順位が必要だ。
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