孫正義28才創業4年目「強者」と「弱者」のNo. 1講演
■起業して何をやるか?2年弱調査研究し、40の事業アイデアからパソコンソフトの流通に決めました。軌道に乗り始めたきっかけですね。それは、ソフトバンクは大量に良いソフトを仕入れて、それを大量に数多くの店に販売をすると。こーゆー役割です。
したがっていろんないいソフトをたくさん持っていないとお店に説得力がありません。逆に良いソフトをたくさん集めるためには、販売店をたくさん取る先を持っていませんと、ソフトを開発した会社はなんでお前の所と、直接売るより安い価格で下ろさないといけないんだって。どうして現金じゃなくて売掛金としてやれるんだと。ということを当然行ってきます。
そこで私は考えました。こういう場合は自分自身が卑屈になってはいけないだ。自分自身が簡単なところから狙っちゃっいけない。あれ1番難しいところ1番説得力があるお店を最初に狙わなきゃいけないと。
ある程度簡単なお店でもたくさん交渉をしていくには膨大な時間がかかります。そういうお店ほどある意味では逆に説得も難しい。
やはりワンマン社長がいてほんとに業績がナンバーワンの会社、この会社と交渉しなきゃいけない。ということでソフトの開発会社で日本でナンバーワンのところ、ここの社長に全精力を投入しまして、交渉いたしました。
同じ時期に販売店でナンバーワンの店ここの社長に直接私自身が全精力を投入いたしました。
両方の社長に言いました。
「私には実績はありません。しかし、うちの会社と独占的に取引をさせてください。今まで取引しているところは全部、いろんな仕事上の関係あるでしょうけれども、商道徳の上からもできないでしょうけれども、今まで取引してるところは全て切ってください。全部、私のところに絞ってください」と。
そしたら驚いてました。
「絞るのはいいけれども、大丈夫かと。実績がないと言うのもわかったけれども、俺んところはすでにいろんなとこと実績があって仕事が流れとるんだ。なんで君のところに絞れるのと。縛ることによって得られるメリットは何だ」
とズバッと聞いてきます。
私のところ1本に絞ることによって、ソフト開発会社の社長には「おたくの売り上げは下がります。確実に売り上げは落ちます」
そしたら相手の社長は口をぽかんと開けていました。こいつは何を言いたいんだろうかと。独占販売させろ。その上で売り上げは確実に落ちる。その上で私は言いました。
「利益率も下がる」と。
いよいよ持って社長は目を三角にしました。
「君は何が言いたいんだ」と。私は言いました。
「しかし下がるのは一時的なことです。私には情熱がある。誰にも負けない情熱がある。オタクの営業マンも販売員の方も一生懸命やっておられるだろう。しかし私はその情熱において、お宅の営業マンの方に負けるとは決して思わない。
今は実績も何もない。したがって売り上げは確実に落ちます。利益率も下がります。我々を通すわけですから。
だけど見ててください。必ずやって良かったと思う日がやってくるでしょう。いつまでもとは言いません。
しかし私が納得するまで、そちらも納得するまで独占販売をさせてください。私は力いっぱいやります」
とわけのわからぬ理由で説得しました。
「よし。わかった。理屈じゃぁ成り立たんけれども、お前の情熱にかけてみようじゃないか」
※このハドソン工藤さんの肉声は以下コメント欄
同じく販売店の社長も同じように説得しました。
「卸価格は今までよりも高くなります。しかし私はお宅の仕入れの方よりもはるかに、これだけに専念してやるわけですから、必ずや効果をもたらせす。モノは価格だけじゃない。品揃え、その品揃えも在庫というのが必ず伴う。するといくら安く仕入れても結局不良在庫を残してしまって結果的には儲けにならんでしょう」と説得しました。
※以上の上新電機との詳細は以下コメント欄
ということで最初に取引の口座が開けたのが、1番名前の通った1番実績のあるソフトの開発会社(ハドソン)、それから1番実績のある販売店(上新電機)。この両方のお店で独占販売権を取ったわけです。
そうすると2番手3番手4番手のお店は、「あそこが認めたのか。これはきっと何かある」と、以降の説得は非常にスムーズに行きました。
あの1番の店が我々と独占的な取引をしている。
それ以外の理屈はいっぱい並べ立てますけれども、やはりそこが1番の決め手なんですね。
こうして1番と1番を抑えて、一気にその両方の川上と川下をダート攻め込むと。それは当然我々も1番になれます。あー上も下は下も上から1番のところだと抑えた。
我々もその間に立っているわけですから、その勢いに乗って1番の座をとることができました。そういうことでナンバーワン。
■「強者」の戦略
私は1番と言うものにこだわっております。そのこだわりが大事なんじゃないかと。私は思うわけなんであります。
2番3番4番の会社、ベンチャーの会社っていうのは常にいろんな危険にさらされています。金融、市場の環境、競争相手の打ってくる戦略、いろんな意味で危険にさらされています。
4番5番の会社っていうのは限界生産者です。すぐにいろんな大波小波で倒されていきます。
しかし1番の会社。1番の会社と言うのはその会社の売り上げ絶対額ではありません。
1番と言うその相対的な位置づけ。これがその会社の強みを表すんじゃないかな。
市場の変化があっても、潰れていくのは3番4番の会社。
市場が不景気の時、1番の会社はシェアを伸ばすことができる。なぜなら限界生産社がどんどん倒れていくからです。そのシェアをくみ取ることができます。
その時に手を思いっきり伸ばしておいて、市場が好転した時、これは利益を取ることができます。
1番の会社っていうのは大抵どの産業でも利益率も1番高い。安くしなくても、それ以外の総合的なパワー※があるからです。
だから私は1番にこだわっております。※一番は覚えやすい口コミ紹介も
まぁパソコンソフトの流通においてはある意味ラッキーだったと思います。というのは競争相手※が、たいした競争相手がほとんどいませんでした。一気に全国ネットを張りました。
※日本ソフトバンクの創業は1981年。2番手ソフトウエアジャパンは1983年、3番手ソフトウィングは1986年。共に倒産や吸収合併。
ランチェスターで言うところの「強者」の理論。強者の戦略と言うのを私は取りました。
孫子の兵法とかまぁいろんな兵法で言うところの、「鶴翼の構え」ですね。
鶴が翼を広げたように、強者の立場として一気に網を張る。初っ端から全国ネットに打って出ると。小さな魚は食べない。
そういうのは後回しにして、1番大きな1番おいしい魚に食いつくと。地域戦にはこだわらずに、全国一気に網を張って一気に1番おいしいところから食っていくと。
これが「強者」の戦略。
ですから大きな網を張って一気に全国に出ていきました。競争相手が地元の小さなところを狙っている間にこちらも一気に売上高を確保することができました。
したがって、そのボリュームによっていろんなスケールメリットを出すことができました。勢いがつきます。
■「弱者」の戦略
しかしもう一つの事業、出版。これはそういうわけにはいきません。すでに競争相手の会社が十数社ありました。これらはもう何年も前から固定した読者を持っています。
我々には何にもノーハウがありません。全くノーハウなしでそれらの競争相手に形なければなりません。出版をやったことのある経験者これは全然いないわけです。私自身も全く経験がありません。しかし月刊誌を同時に2つスタートしたわけです。
私は考えました。この場合は弱者である。弱者であるから戦いをやらないか。しかし戦いをしなきゃいけない時もある。私は考えたわけです。
ソフトバンクはソフトを販売しております。エンドユーザーには販売していません。一般消費者ですね。個人の一般消費者には販売しておりません。すべてソフトバンクの加盟店を通じて販売しております。これは間接的な販売です。
したがってエンドユーザー一般消費者の方々に何かしら伝える手段を自ら持っていないといけない。直接販売はしないにしてもプッシュのマーケティングとプルのマーケティングですね。
この両方の手を同時に持たないと立場的に非常に弱くなってしまう。そういうことでエンドユーザー何十万人ものエンドユーザーに直接コミュニケートする手段を持つべきだと。それが出版のわけです。
ですからソフトバンクはコンピュータのソフトウェア、コンピューターに関係ない出版はやっていません。すべてコンピューターに関連のある出版です。それは自分の市場に対するマーケティングの一環としてやっているわけです。
で、やらなきゃいけないということもわかった。しかしどうやれば勝てるのか。やる以上は日本で1番にならなきゃいけない。
どうやれば、弱者の立場でスタートしてナンバーワンになれるか。ということを考えました。
この場合は翼を広げてはいけない。「鶴翼の構え」これは絶対にタブーだと。くちばしを尖らかして1点に集中し、そのターゲットをびしっと狙い撃ちしなきゃいけない。
つまりその雑誌が同じ480円の価格で、競合している雑誌と同じような内容ではいけない。同じような読者層を狙ってはいけない。他の雑誌は若い子供から年配の方まで。機種もNEC富士通東芝日立全部の機種狙っている。これは同じ構えで狙ったのでは当然負けると。
そこで私は絞り込んだわけです。
この1冊の雑誌はNECのパーソナルコンピューター、これだけに絞る。という雑誌。この1冊はシャープのコンピューターこれだけに絞ると。
同じ480円でいろんなコンピュータの情報が200p雑誌と、同じ200ページにNECのことばっかり書いてある雑誌。
どちらを買うか?
NECのパソコンを既に買った人は自分が持っていないパソコンの記事よりも、NECに絞って書いてある雑誌の方が、同じ値段を出しても価値がある。何倍もあると。
すべて網羅でなく、限られたターゲットの限られた市場でナンバーワンになる。
シャープの機種ユーザー向けにも特化したナンバーワンの雑誌を作る。最も価値のある雑誌。そのユーザ向けでは最も認知の高い雑誌を作る。
で、結果そうなりました。半年位かかりましたけど。
小さな勝ち、小さな勝利。これを連続して加えていくんだと。これが私の基本的な戦略です。
次には富士通、エプソン、東芝、ソニー、いろんなところが「俺んとこの雑誌も作ってくれ!」と逆に向こうから頼んでくる状況になりました。
ということで現在月刊誌6誌、季刊誌2誌、1年間の発行部数で大体700万部位発行しております。
この小さな勝利の合計として、昨年からコンピューター分野の雑誌出版では日本でナンバーワンになりました。
私はナンバーツー以下、ナンバーワン以外は全部敗北であると。ビジネスは戦い。戦いをやる以上は勝たなきゃいかん。
勝ちというのはつまりナンバーワンであると。
何も大きな売り上げを上げる必要は無い。
大きな市場を狙う必要もない。
小さな分野でも良い。
しかしその分野で、その分野に限ってだけは日本で絶対に1番になる。
これが私の基本的な信念であり戦略なわけです。
何がナンバーワンになるか。それは売り上げであり利益であり成長率それからクオリティーいいですね。社員の質そういうの全てにおいてナンバーワンでなければならない。
1つの側面だけがナンバーワンたってもそれはまだ本当の意味でのナンバーワンではない。そういうものは長く保つことができない。いずれ追い抜かれてしまう。
だからあらゆる角度から見てあらゆるバランスの上でナンバーになるんだ。というのが私の基本的な考えです。
こうして創業1年目の売上が20億。
2年目が45億。
3年目が75億。
4年目が117億。
今年がおそらく150億だろうと思います。
1986年孫正義28才の時
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