なるほど!これは貴重なカミングアウト。高級品は売れない。低品質な方が売れる。ちょっとダサい方が売れる。大衆は。顧客は誰か?
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■前略・・・「ブルワリーを始めてから6年後に、初めて優勝することができました。『これから売り上げが伸びていくぞ』と思っていましたが、実際には何も変化がありませんでした。優勝することでお客が自分たちのビールを買ってくれるようになると思っていましたが、その考え方は完全に間違っていました」
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鈴木はそのときもまだ若く、知り合いで尊敬されている何人かの実業家に相談をした。その一人で、ティアというレストランチェーンの設立者である元岡健二には、「ビジネスについて全く何も理解していない」と13時間連続で叱られたことがある。鈴木は打ちひしがれつつも、その意見を役立てるために受け入れ、目的意識を新たにして帰った。これが鈴木自身とビール醸造事業の転換点であった。元岡の言が正しいことを受け入れ、ビジネス書を読みまくり、元岡に言われたことと、それに関連することすべてについて調べた。そして会社の問題点を解決する方法を見つけるに至った。
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「あの時、たくさんのことを勉強しました。品質が常に重要であることはもちろんですが、マーケティングも非常に重要です。さまざまなお客がいて、それぞれ異なる好みを持っています。筋金入りのクラフトビールファンは非常に熱心にクラフトビールを求めますが、伊勢にやって来る観光客のほとんどはそうではありません。お土産になるものを探しているのであり、彼らが求めるものに合致する特徴を考えました。私たちが抱えていた問題は、熱心なビール愛好家にも一般的な観光客の両方に訴求するようなビールをつくろうとしていたことであり、それは不可能なことであると理解しました。現実には、誰も満足しないようなビールをつくっていたのです」
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2004年には、ビールの製造をビール愛好家向けと観光客向けの二つに分け、これは後に完璧な改革であったと証明された。日々訪れる観光客向けに取っつきやすくて価格も低く抑えた銘柄は、伊勢角屋麦酒のレシピに基づいて委託醸造でつくることにした。自社の醸造スタッフがつくるビールは、「伊勢角屋麦酒」のブランド名で愛好家向けにつくることにした。レシピが二つの異なるターゲット層にそれぞれ正確に合致し、適切なマーケティングを実施したおかげで、2005年に製造量が倍増した。クラフトビールの動きがまだわずかに増えていただけであった2000年代中頃に、まずは外部に委託してつくられたビールの売り上げが大幅に増えた。
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委託醸造ビールは、黒米と少量のカスケードホップを用いたアメリカンペールエールである神都麥酒から始まった。次に2007年に生まれた熊野古道麥酒は、ホップの特徴が比較的穏やかな、軽めのブラウンエールであり、これも観光客の間で人気が出た。銘柄名の由来は、三重県や和歌山県にまたがる紀伊山地に古くから続く参詣道で、世界遺産に登録されていることでも知られている。これらの銘柄の成功は、必要であったキャッシュフローを生みだし、品質の高い製品を提供することに特に重点を置いて取り組んだ結果、ビール愛好者向けの伊勢角屋麦酒ブランドの銘柄も年々安定的に成長していった。
つづきは